大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(あ)1020号 判決 1951年2月01日

本籍並びに住居

岐阜県山県郡保戸島村戸田二一五番地

元郵便局事務員

岡田亘

昭和六年二月四日生

右に対する私文書偽造行使詐欺及び詐欺被告事件について昭和二五年二月二八日名古屋高等裁判所の言渡した判決に対し原審弁護人渋谷正俊から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人島田武男、同島田徳郎の上告趣意について。

しかし、原審が第一審判決の量刑を相当であると判示して、被告人に刑の執行猶予を言渡さなかつたのは、被告人の本件犯行が原判決に説示するような公務員の犯行として最も忌憚すべき性質のものであり且つその動機が遊女に溺れて遊興費に窮した結果であると認めその犯情決して軽いものではないと思料したからであることは判文に徴したやすく理解されうるところであつて、所論のように原判決は公務員と公務員に非ざる者を区別し被告人が公務員の身分を有していない者であるなら刑の執行猶予を言渡すのが相当であるが、被告人は公務員の身分を有する者であるから第一審判決の量刑は相当であるとの趣旨を判示していないことは判文上明らかなところである。そして犯情によつて刑の執行を猶予するかしないか等の犯人の処遇を異にすることは憲法一四条に違反するものでないと解すべきことは当裁判所大法廷の判例の趣旨とするところである。されば原判決は所論憲法に違反するものではない。論旨前段は原判決は被告人が公務員の身分を有する者であることを理由として刑の執行猶予を言渡さなかつた第一審判決の量刑を是認したものであると原判示にそわない事実を前提して原判決の憲法一四条違反を主張するものであるから、論旨はその前提を欠き、刑訴四〇五条一号に当らないし、また、同四一一条を適用すべきものとも認められない。次に刑法二五条の規定には「……其執行ヲ猶予スルコトヲ得」との明文があつて刑の執行を猶予するか否かは刑の言渡を為すべき裁判所が諸般の事情を参酌して決定すべき裁量事項に属することは当裁判所の確立した判例である。そして原審はその裁量権に基ずき犯情動機等を斟酌考量して刑の執行猶予を言渡さなかつた第一審判決を是認しただけであつて、何等執行猶予に関する法律上の見解を示してその法律上の判断を与えてはいないのである。されば原判決を以て所論の大審院判例に違反すとの論旨後段は結局名を判例違反に藉りてその実原判決の是認した第一審判決の量刑を非難するに帰するから、刑訴四〇五条三号に当らないし、また同四一一条を適用すべきものとも認められない。

弁護人渋谷正俊の上告趣意について。

論旨に縷述するところは、結局原判決の是認した第一審判決の量刑を非難するにとどまるものであるから、明らかに刑訴四〇五条所定の上告適法の理由に該当しないし、また、同四一一条を適用して職権を以て原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとも認められない。

よつて刑訴四〇八条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 澤田竹治郎 裁判官 眞野毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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